先週金曜日はライブでした。演奏会後はそのときの録音を聴いて「ひとり反省会」を開くのが恒例となっております。
金曜本番+その後打ち上げ朝3時頃まで・・・土曜は朝10時から夜7時までレッスン・・・日曜午前お買い物&午後昼寝・・・という感じでしたので、やっと今ゆっくりと録音を聴くことができました。
とりあえず先日のセットリスト、以下です。
(富川勝智+尾野桂子)
小さい秋みつけた(中田喜直)
おてもやん(熊本民謡)
カラグナ、チャサピコ&チャサポセルウィコ(ギリシャ民謡)
赤いほっぺ(スリナッチ)
ロシアの思い出(ソル)
(尾野桂子ソロ)
前奏曲1番&ショリーニョ(ヴィラ=ロボス)
月光(ソル)
アランブラ宮殿の思い出(ターレガ)
(富川勝智ソロ)
11月のある日(ブローウェル)
トリーハ(トローバ)
エストレリータ(ポンセ)
アラビア風奇想曲(ターレガ)
魔笛の主題による変奏曲(ソル)
(富川勝智&尾野桂子)
パヴァーヌ(フォーレ)
無窮動(プーランク)
タランテラ(プティ)
アンコール〜オーバー・ザ・レインボウ(アーレン)
以上で、前半1時間、後半も1時間というボリュームたっぷりのライブとなってしまいました。
さて、以下富川による「ひとり反省会」です。(演奏で使用した楽器はロベール・ブーシェです)
小さい秋みつけた(中田喜直)→よく歌えていたと思います。音程感とそれを表すための音色の扱いがうまくいきました。ブーシェ独特の音の残りかたをうまく利用してヴィブラートをかけましたが、これもうまくいっています。しかし、逆にこの「音の残り」が和声的に濁りもうむ危険性もあります。これは今後のコントロールの課題点です。
おてもやん(熊本民謡)→民謡独特のニュアンスはスタッカートなどを利用してうまく表現できました。全体としてもうすこしダイナミクスに起伏があればと思いました。
カラグナ、チャサピコ&チャサポセルウィコ(ギリシャ民謡)→フレーズ感を表すのに苦労しましたが、アゴーギグの扱いなどうまくいき、なんとか「聴かせる」演奏ができたと思います。タメる部分・・・も良い感じに決まっていると思います。その場、その場で想いをこめていく即興的な感じもでていて、全体として満足いく出来でした。
赤いほっぺ(スリナッチ)→カウンターラインの扱い(音色の変化)はグッドです。もうちょっと音量を落とすところをつくるとコントラストがでたかもしれません。
ロシアの思い出(ソル)→序奏部分。「重み」がうまく表現されています。しかし、その重みを抜ける瞬間を無意識に弾いているため、後付けの表現になっています。このあたりは次回演奏時にしっかりとチェックしておこうと思います。変奏部分はリズムコントロールがうまくいっています。楽器に不慣れなせいか、ポジション移動と押弦のちから加減がうまくいっていない部分もありますが、これは時間の問題でしょう。もうちょっとテヌート部分をつくれば良かったとも思いますが、古典的な明瞭さは出せていると思います。旋律を歌わせるときのヴィブラート&減衰(これがブーシェの魅力)もうまく決まっています。この感じはアルカンヘルでは出せないなあ、と本番中も思いましたが、やはり録音を聴いてもそう思います。このセクシーさはブーシェ独特なものなのか?・・・今後の研究課題です。終結に向かってのテンポの詰め方は良い具合に決まっています。どちらにしてもこの曲はテンポ設定とリズムのコントロールがとても難しいのです。今後もいろいろ試しながら弾きこんでいきたい曲ですね。
(※ここで前半最後は尾野桂子のソロでしたが、これについての寸評は後述・・・とりあえず、自分の関わっているものを「反省会」します。)
(富川勝智ソロ)
11月のある日(ブローウェル)→1弦の音色のコントロールができていない。ブーシェらしいまろやかさはよく出せている。
トリーハ(トローバ)→凡ミス多し。やはり譜面なしで弾いている弱点である。ほぼ暗譜しているという安心感がうむ嫌なタイプのミス。
エストレリータ(ポンセ)→これは良い演奏だった。南米的リズムに集中して演奏したが、実際の演奏を聴くと音色のバリエーションも綺麗についていて、良かったと思う。アルカンヘルで弾くよりも若干ピアニスティックな表現になったかもしれない。
アラビア風奇想曲(ターレガ)→この曲にきて、やっとブーシェらしい音色を意識的に出そうとしているのが録音を聴くとわかる。イントロ部分の「うねり」がうまくいっている。上行スケールももうちょっとニュアンスが欲しかったかなあ。低音の音が荒い部分があるが、全体のノリとしては良かったかもしれない。アラビア風な感じにはまとまっている。
魔笛の主題による変奏曲(ソル)→思っているよりしなやかに弾けているが、古典的な明瞭さが前半に欠けている。単純にテクニックの甘さが出ている部分もあるが、単純にリズムトレーニング不足かもしれない。最近のサボりがでる。注意。3連符〜コーダ部分の表現は良い意味で「レヒーノ的」。偶然ではあるが(その場の思いつきの表現アプローチという意味ですよ)、このかっちりとした「フルピッキング」な感じは意外に悪くないと感じた。そういえば、大学生くらいのとき、こんな感じの表現好きだったなあ・・・と思ったわけです。三つ子の魂百まで?。
(富川勝智&尾野桂子)
パヴァーヌ(フォーレ)→伴奏のバランスが良いです。デュオでの音量バランスはもうちょっと考えたほうが良かったかもしれません。
無窮動(プーランク)→メロディーの音圧がしっかりと感じられた演奏だったと思います。尾野の伴奏のバランスとリズムも良い!。私のポジションミスのごまかし方もうまい。これはおまけ的プラスポイントだけど。2楽章の雰囲気もうまくまとまっていて、3楽章の華やかさもよく出ている。もうちょっとフランス的な細かいニュアンスを出した演奏アプローチも磨きをかけたいところだが・・・。
タランテラ(プティ)→練習の成果が良く出ている。時間的制約の割にはよくまとまっている。それにしても音階が不慣れなパターンが多くて困った曲だった。今後もパーツ練習は続けていこう。全体としては良い演奏ができている。
アンコール〜オーバー・ザ・レインボウ(アーレン)→アンコールらしいリラックスした表情で弾けている。とても良かったのではないだろうか?
以上、私の『反省会』。
以下は尾野のソロを聞いた私の『感想』(私の弟子なので、割合ストレートに記述します)。
(尾野桂子ソロ)
前奏曲1番&ショリーニョ(ヴィラ=ロボス)→前奏曲1番。実に立体感ある演奏だったと思う。低音のメロディーと伴奏部の弾き分けがうまくいっているので、オーケストラ的に「左右に分かれて聴こえる」。中間部の楽譜の正確な読み(リズム面)も功をそうしている。女性らしいエレガントな中間部。この部分で華やかさ&しなやかさを出さないと、テーマ部分に戻ってきたときの粘りがなくなることを忘れている人が多い中で、この点をしっかりと把握している演奏。ショリーニョも間のとりかた、緊張感の高め方など「手のうち」に入った演奏。細かいニュアンス&リズムの伸縮のバランスも絶妙。中間部のショーロ的軽さ(リズム面)がもうちょっとでると良かったとは思うが、これは弾き込んで行くうちに表にでてくるだろう。
月光(ソル)→メロディーをよく聴けている演奏。後半リピート時の最初のほうに若干の「迷い」があるが、これが表現としてうまく機能している。個人的にはこの表現はプラス・・・。演奏家としてやっていくと、このような偶然の産物に出会うことがあるが、これをその後の表現アプローチに活かしていくことがポイントとなります。終結に向かってのクレッシェンドの扱いもデリケートでよかった。
アランブラ宮殿の思い出(ターレガ)→3拍子のリズムをうまく捉えている。トレモロの音色も「正攻法」で、とても良い(粒が出ている!)。表現の方向性(緊張感の高低)もしっかりと分かる名演。Pのタッチにもうちょっと深み、音色の変化があると表情がぐっとでるのであるが、これは本人も分かっているようなので、今後の課題なのだろう。全体としては、とても良い演奏。この演奏のテクニック&表現のバランスがとれた「名演」はどのプロ奏者にとっても難しい。その観点からみれば、素晴らしい演奏であったと思う。
以上、ひとり反省会でした。
全体としては、良かったと思います。なによりもまず、最近使用しているブーシェの特性がとてもよく理解できました。楽器というのは「らしさ」が大事です。この「らしさ」を徹底して研究して掘り起こすことが新しい音色のバリエーションを得る方法なのでしょう。この「らしさ」を追求していくと表現のアプローチも変化していくのが自分でも楽しめました。この感覚を忘れないうちに、いろいろと試してみたいと思います。
また楽器の可能性を認識させてくれた場を提供してくれたBlue-Tさんにも感謝です。やはり楽器のポテンシャルは本番+会場の音響によって左右されます。(もしかしたら、後方にあったスタインウェイが協力してくれたのかも?)
プロとしての弟子とのデュオは実は初めてでしたが、これもうまくはまったようです。お客様からは「息が合っていた」「左手の形が似ている」など言われました。手の形が似ている・・・は非常に興味深い発言でした。やはり知らず知らずのうちに似てくるのでしょうか?。私自身もとても楽しく弾けました。尾野桂子のレスポンスの良さもとても良かったです。けっこう好き勝手に弾いてもついてきてくれましたので。
さて、長ーくなりましたので、このへんで。
ほんとうにご来場のみなさま、ありがとうございました!!