日曜日、ソルを勉強する会が行われました。ひたちなか市のギター愛好家の団体アコラさんの主催でした。

このアコラさんの主催で「デ・ラ・マーサ兄弟のギター作品」というテーマでレクチャーコンサートを行ったこともあります。

今回の講演内容は・・・うってかわって19世紀! 

 

さて、今回のテーマは、19世紀のギターレパートリーとしては至高の作品群を生み出したフェルナンド・ソルです。

講師は北口功さんと私、富川勝智です。

受講生は16名。聴講は5名ほど。受講生はソルの楽曲を演奏しなくてはいけません。「勉強するうえで同じ土俵にたちましょう!」というのが北口先生の意図です。

各受講生の演奏について、北口先生がコメントをします。「音楽とは何か?」「演奏することとは何か?」という点について各奏者の足りない点を優しい口調で解説。しかし、その内容は音楽をやる人として「絶対に忘れてはならない」ことであり、実は内容としては厳しいものであったような気がします。

私はバイオグラフィーの面から、ソルの音楽へ切り込むヒントを与えるというテーマでお話していきました。約2時間ちょっと・・・。

ソルが影響を受けた音楽、当時のギター以外の音楽界の様相・・・ちょっと面白い切り口としては、ソルのエチュードと当時のピアノ教則本ブームとの関連。このあたりにきづいていけると、ソルの音楽について切り口が見えてきます。

またソルの楽曲にスペイン的なものが少ない理由についてもお話しました。これは実はビウェラ以降の「ギター史」をある程度把握しておかないと理解できないものかもしれません。

先日、バロックギター奏者アドリアン・ファン・デル・スプール氏のレクチャーではビウェラと当時のギターについて詳細に説明がなされました。そしてその音楽性についてもポイントを絞ってお話をされていました。

私はこのレクチャーでは進行役兼通訳をしましたが、「なるほど!」と思ったものです。

17世紀から19世紀において、人々にとって「ギター」とはどのような楽器だったのか?・・・どのような音楽を行う楽器だったのか?・・・これらの観点を忘れてしまうと、ソルの音楽における「スペイン性」を見失う結果となるかもしれません。

あと、ソルが作曲家、教育者としてどのような活動をしたか・・・も忘れてはならない点であると思います。少なくとも初期の活動において「カリプソ島のテレマコ」でデビューした時点においてはソルはオペラの作曲家だったのですから。

その後、ギター曲よりはアリアや合唱曲の作曲家として評価されており、それはロンドン時代まで続きます。

ギタリストとしてだけ見ていると見失うソルの「音楽哲学」があります。

このバイオグラフィーの最後にソルの教則本について簡単にポイントだけ説明しました。バイオグラフィーを概観することで「ソルの音楽哲学」が理解できたという前提でお話しました。そうすると、ソル教本に書いてある技術上のポイントが実にスムーズに理解できます。

ソルがギターの上に求めたのは、当時のそのほかの楽器奏者が実現していた技術レベル、音楽レベルだったのかもしれません。それを「ギター上でたやすく実現するためのアプローチ」を彼は追求したのかもしれません。

当時のギター界においては異端のアプローチもあったのでしょうが、ソルは確信をもって「よい音楽をするための」技術論を教本内で展開しています。

時間の都合で、ソルと同時代のギタリストとの技術面、音楽面の違いまではふれませんでした(これは私が押上の天真庵などで19世紀ギターライブを行っているので、それを聴いた方には理解できるかもしれませんね) 。このあたりまで踏まえると、よりソルの音楽哲学が理解できたかもしれません。

ソルの音楽のカタルーニャ性もあえて触れませんでした。これには当時のカタルーニャ地域の経済や政治体制も絡んできます。話が煩雑になるのをさけるため、あえてお話しませんでした。もうすこし時間があるならば・・・ふみこめたかもしれませんが・・・。

与えられた時間がやはり2時間ちょっとでしたので、ソル及び19世紀の音楽界を俯瞰するのにも足りません。もし、今後もこの勉強会が継続して行われるのであれば、「2日間」は欲しいかなあ!と。

そうすれば、座学的なバイオグラフィー講義と、実学的なソル演奏に対するアプローチ法を両立でき、且つ統合できる「勉強会」にできるのかなあと思います。


どちらにしても、今回この講座を準備するにあたって、19世紀の音楽界及びギター界を概観でき、資料を整理できたのはとても良かったです。まだまだネタになりそうな資料はたくさんありますので、是非またアコラさんのほうで「続編」を企画していただければなあ、と思います。


最後に・・・・

こういう勉強会というものに、もっと多くの人に参加してもらいたいと思いますし、もっと興味を持って欲しいとも思います。特に若手のプロ志望ですね。ただ曲を弾いているだけだと、終わってしまうでしょうね、あと数年で。自主的に勉強会を企画するとか、講師を呼んで勉強会をしよう!とか・・・そういう「本当の意味でのアクティブさ」がギタリスト生命の生死をわけますよ。 

クラシックギター奏者というものは、今だけを見ていては駄目です。過去を生き、そして未来へとつなげていかなくてはいけません。50年後の日本において、「ああ、そういえばソルの教本ってのがあったかもなあ・・・読んだことないけど・・・」という状況になってしまうことを危惧しています。数編の楽曲だけが残って・・・そこにソルの音楽哲学が失われてしまうという状況・・・これは由々しき事態ですよ。

そういう意味で、忙しいなかこの「ソルを勉強する会」を企画したアコラさん、中心人物の熊坂さんの強い意思には尊敬を感じます。こういう会がもっと全国的に増えていけばいいのですが・・・。 

 



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