さて、8月も終わっちゃいますね〜。ということで、9月に入る前に…
8月18日のことになりますが、GLC学生ギターコンクールに審査員としていってまいりました。その感想と「思う事」を書いておきたいと思います。

結果はこちらでご覧頂けます。

みな立派な演奏でした!素晴らしかったです。特に小学校高学年と中学生の部はレベルが高い演奏でした。


みなさん先生に習っていると思います。その先生から教えてもらったことをしっかりと守って、「音楽のルール」に則って演奏していることが分かりました。そこからもう少し皆さんの「言いたい事」が伝わる演奏になっていけば、より「その人らしい」演奏になっていくのだろうな、と思います。…というよりは、みなさんが学んでいるのはもしかしたら「音楽のルール」に則って、先生が考えた結果かもしれません。もっと主体的な演奏スタイルを持ってくれたら嬉しいなあ、と思います。そうすれば、楽譜からもっとたくさんの情報を引き出せますし、それが「あなたの音楽」になっていきます。


「音楽のルール」をしっかりと理解したうえで楽譜からしっかりと情報を読み取って、自分のストーリーを作っていくこと…これが音楽の本当の楽しみです。このことを知ってもらいたいと思い、この文章を書くことにしました。


私が審査した二次予選の感想をもとに、簡単に説明していきます。二次予選の審査を担当したのは、中学生と大学生の二部門でした。


中学生の部は「月光」です。大学生の部は「アメリアの遺言」。それぞれに特記ポイント(表現してくれたらなあ!…という点ですね)はあるのですが、まずは共通の要素からお話していきましょう。


1:共通する審査ポイント。以下です。

フレーズ感

声部の弾き分け

ダイナミクス

拍節感


2:月光に関する特記ポイントは以下。

テンポ設定

ヴィブラートをどうかけるか?また、どこでかけるか?

和声の変化を意識しているか?

アクセントの設定


3:アメリアの遺言に関する特記ポイント

グリッサンドやポルタメント、アラストレの意味付け

ハーモニクスの表情

四弦上での歌い回しと音色


上記、1、2、3と分けました。まずは1が審査する際の基本点となります。2と3は追加点ですね(とはいっても、本当はしっかりと全要素やってほしいですが…)。


正直言うと、中学生の部も大学生の部も1を全て適切にバランスよく行っている人はいませんでした。ダイナミクスはみな意識していたようです。あとは声部の弾き分けですかね。これら二点で本選に進めるか進めないか…というのは決まったように思います。フレーズに関しては完璧に考えている人はほとんどいませんでした。みな「軸」が定まっていません。どこがフレーズの頂点なのか分からない…そのような演奏がほとんどでした。フレーズは横のラインです。第一段階として拍子感(拍感)は無視してしっかりと練習してほしいと思います。緊張度の高まり、弛緩する感じ…これらのことがアゴーギク(音量と速度の変化)できちんと表されているかをチェックしてください。


拍感に関して。拍感もほとんどの人で感じられませんでした。中学生の部で数名、大学生の部でも数名…拍感は単純にいうと「小節線はどうしてついているの?」ということです。そして、3拍子って何?4拍子って何?…ということです。言ってみると周期性なのですが、これは上記のフレーズとは相反する要素です。

フレーズはまっすぐにラインを伸ばしていく運動です。反対に拍節は区切ろうとします。フレーズの伸びばかりを意識しすぎると、拍節の周期がなくなって推進力のない音楽となってしまいます。拍節が強く前に出過ぎると、フレーズ…つまり歌がなくなってしまいます。この両者のバランスを整えることは、実はとても難しいです。ですが、このバランスが奏者の個性であるとも言えます。


さて、月光とアメリアの遺言のそれぞれ個別のポイントを見ていきましょう。

2です。月光の特記ポイント。テンポ設定はフレーズの緊張感が維持できる限りはゆったり目でよいような気がします。アレグレット(ソルの原典)もしくはモデラート(セゴビア版)なので、みな一様に速めに弾いていたようですが、楽曲の短調の風情などを考慮すれば、アレグレットはアレグロよりも遅めです。そもそもアレグロには「速い」というニュアンスはありません。動的であることは確かなので、よく歌わせることが肝要です。なので、私の審査ポイントとしては、「きちんと歌わせられるテンポである程度、推進力のあるテンポを設定していること」としました。

ヴィブラートの位置。フレーズの流れの中で、どこでヴィブラートをかけるか、またどこで?…このことについてきちんと考えられている演奏はほとんどありませんでした。せっかくギターで演奏するのですし、「月光」という別名で知られているように「歌うこと」が大切な曲でもあります。この点が考えられている演奏がもっとあって良かったのではないか、と残念です。

和声の変化が面白い曲です。たった一音で流れが変わります。そういう場面があるのですから、そのキーポイントとなる音をしっかりと印象深く弾く事が大切です。

アクセントの位置。これと関連して、拍節の周期性やメロディーのパターンを破るところにアクセントを適切につけること(印象的に弾く事=聴き手にその変化を感じさせること)…これができている人がほとんどいなかったです。


3です。アメリアの遺言です。リョベート編の良さをきちんと活かした演奏をしてほしかったです。タレガ〜リョベートの時代のグリッサンドやアラストレは現代よりも濃厚でした。これはタレガの弟子であったレッキの教本などを見れば分かります。ポルタメントなどは「半音がきちんと聞こえるように」弾かねばならないと書いてあるからです。これらの技術は「歌の模倣」です。なので、当時の歌は今よりも「濃かった」のでしょうか…そのあたりを想像してきちんと楽譜を厳守して練習してほしかった。これもほとんどの方が「おまけ」程度にしてやっていませんでした。そして、もしやっていたとしても、ワンパターンになっていることがほとんどです。音程感をしっかりと感じて、相応しい速度感と濃度を選択しなければなりません。もちろん、この濃厚な歌い回しは現代人の感性に合わないかもしれません。しかるべき調整がなされてもよいのですが、そこまで考えていた人がいたかどうか…疑問です。

ハーモニクスも単調な歌い回しが多かったです。フレーズですから、きちんとアゴーギクを付けて演奏してほしいです。きちんと音が鳴っているという演奏ばかりでした。ハーモニクスにも「音色」と「音量」があります。なので、きちんと歌ってほしかったです。結果として技術としてノーミスである人を本選に通すかな?…という結果になったと思います。

後半に、4弦上で旋律が歌う部分があります。この音色にもっとこだわりを持ってほしかったです。ローポジションで弾けば、簡単だったでしょうね。でも、ハイポジションの低音弦の音色と同一弦でとる意味があります。そのアレンジの意味をしっかりと考えてほしいです。技術的にはp指のコントロールが上手くできていない人が多かったです。


以上、述べてきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

音楽には「ルール」があります。そのルールに則って、楽譜を読み込んで行くこと。そして、各要素を意識すること。各要素のバランスをとること。それが「奏者の個性」に繋がります。


学生コンクールですので、年齢を考えるとまだ先生の表現(結果)の影響が強いとは思います。ただし、少しずつでも、その先生がその表現にいたった道筋を想像してください。必ず、(良い先生であるならば)そこの考えの道筋があり、その奥には「音楽の普遍的なルール」が存在します。


音楽解釈のルールを探しだすことは難しいことではありません。基本を知ってしまえば、未知の曲でも自分で解釈ができるようになりますし、説得力がある表現が付けられるようになります。そして、奏者の本当の個性がそこに出てくるようになります。是非、若い方たちにはそういう勉強をしてほしいと願っています。すくなくとも、上記1の観点だけは、洗練させて行ってほしいと思います。あなたか勉強する曲全てにおいて、考えていってくださいね!