(以下、かなり長文のまとめとなってしまいました)
1月29日、日曜ワークショップの日でした。毎回、クラシックギターの奏法や表現法について公開形式で、10名から20名集まって講義しています。毎回、お互いの弾き方を参照したり、私が受講生のもとをまわってアドバイスを与えたりしていますが、やはり受講生の方は「話を聞く事=わかったつもりになってしまう」ということのほうが多いようです。
なので、今回は「クリニック」形式にしました。
3つのグループにわけて(3名ずつ)、1時間ずつ奏法についてのクリニックを行ったわけです。
クリニックですから、いわば各自の悩みに対する処方箋を与えた訳ですね。ひとりの悩みも他の人の共通の悩みであったりします。そこで更に自分の奏法にたいする疑問や改善点がみつかることもあるかなあ?…とは想像していました。
結論として、まさにそのとおり!になりました。
クリニックの進め方としては、3名それぞれに「普段練習しているときに疑問に感じる事や悩んでいる事、不明な点はないか?」ということを質問していきました。3名それぞれに対する質問が終わって時点で、クリニックに入っていきました。
まずは私なりの処方箋を与えます。そして、それを目の前で実践してもらいます。のこり2名の人にもやってもらいます。「他の人もできているのかな?」「自分はしっかり他者の目からみて今言われたことを実現できているのだろうか?」ということを意識してやってもらうわけです。
これを、順次繰り返していきました。
各グループの質問とその処方箋を簡単に紹介しておきます。
9時からのグループ。
1についてですが、例えば下降スラーのときに、2−1という運指でおこなったときに、2のほうに重心をかけるべきか、1のほうに重心をかけるべきか?…という質問ですね。その人は基本的には1のほうに重心をかけたほうがいいと考えていたようです。しかし、例えばアラビア風奇想曲などのスラー連続&ポジション移動がある場合には、あまり1のほうに重心をおきすぎると、ポジションの移動がスムーズではなくなります。そのフレットに指がロック(固定)されてしまうからです。
実はどのくらい左手の押弦に重心をおくかは、右手の弾弦力と関係があります。基本的に人間は右手と左手が連動しています。しかし、弦がびりつかなければいいわけですから、このくらいの音量であれば、左手の押弦はこの程度の力でいいな!…というのをつかむしかありません。
その基本的なトレーニング法を教えました。そうすると、ポジション移動もスムーズになりました。
2について。下降音階のときに前もって左手の指を準備しておくか?ということです。左手のポジションをつくっていくトレーニングとしてはとてもよい練習ではありますが、実践においては、音がつながっているように聞こえる…ということができればよいわけです。いくら左手が準備されていても、右手と左手のタイミングがずれていては、レガートにはメロディーはつながりませんので。奏法における基本的な練習法と実践における応用は若干違うわけです。最終的には「自分の耳が一番の教師」です。たしかシューマンでしたかね?…そんなことを言っていましたが(追記:ショパンが言っていたことばですね 2012.01.30 pm10:40)、自分の頭のなかにあるイメージを実現できれば「正解」なわけですから、注意深く聴くしかありませんし、そのためのテクニックやルールを定めていけばいいわけです。伝統的な「こうすべき」という基本ルールはそのためのテクニックやメカニックの基礎を表現しているものが多いというだけです。
3について。音量が小さいときに、たとえ大きなホールでも響く音色というものがあります。「音色」についての定義がとても大切ですね。はっきりいってしまえば、倍音構成のことにつながります。高次の倍音が大きければ大きいほど、すっきりと聴こえます。要は右手の弾弦位置なのですが、それをしっかりと意識することです。これは受講生3名に聴き合いながら、工夫を重ねてみました。そのうえで、上記の倍音に関することを説明しました。
4について。基本的に口で息をすること。また空気を吸う時(吸気)とはく時(呼気)のときの「空気がはいってくる&だすとき」の方向性のイメージがとても大事です。「下から吸って、下に吐く」と思っている人は鼻だけで息をしていることが多いです。そしてノイズとなることが多いです。また演奏姿勢もとても大切です。肺を圧迫していると、スムーズな息ができません。あとは奥歯を噛み締めないこと。いくつかのコツを教えました。これも全員に体験してもらいましたが、劇的な改善がみられました。
音楽家にとって、呼吸に関する適切なレッスンは重要だと思います。市販の本でもとてもよいものが最近増えているので数冊読んでみる事も勧めます。
5について。主動筋と拮抗筋の関係を説明しました。例えばimの交互運動を行う時、iを弾いた直後は主動筋がオンになっています。つまり「使用されている」わけです。それをオフにしてから、mを弾弦します。iの主動筋がオフになっていると拮抗筋でスムーズに持ち上げる事ができます。それをしないでiの主動筋をオンのままにして、mを弾弦すると、拮抗筋はスムーズに機能しません。
実はこれを徹底的に意識するのが、ホセルイスゴンサレステクニックノートの最初の章の「音だし」練習です。iが弾弦するスピードと同じ程度でmを「すばやく戻す事」と教えられる事がおおいですが(これは私の師匠である手塚先生やホセルイスゴンサレス先生本人もいっていました)、そのためにはどうするか?…ということを考えなければいけません。実は主動筋と拮抗筋のオンとオフの感覚の問題なのです。
さて、そのためには「オンの感覚」を得なければなりません。よく「脱力が大事!」と音楽家の方がいっていますが、それは「オフの感覚」ですよね?…オフの感覚だけを感じようとしてはだめです。オフの感覚を得る為には、オンの感覚を徹底して感じることが一番最初に大切です。逆説的ですが、オンの感覚を実感するためには、ふだんオフの感覚でいることもベースメントとしてとても大切なのですが…。
そのオンの感覚を手指、腕、半身(肩甲骨あたりから)という風に体験してもらいました。それが分かると、オフにするべき自分の体の部位がわかります。
6について。表現についてです。これは拍を物理運動としてイメージできるか?という点がとても大切です。自然な動きをイメージすることが基本条件ですね。まるでボールがバウンドするかのようにですね。バスケットボールを弾ませるイメージを持つ事ですね。しっかりバウンドさせつづけるためには、しっかりとボールに力を与えなければなりません。そして、バウンドをさせつづけないためには…あまりボールに力をあたえてはいけません。バウンドが止まりそうなボールに一気に力を与える事も可能ですね。テーマに戻る「ア・テンポ」などはそのようにすると、聴き手に「あ!エネルギーが戻った!」という印象を無意識に与える事が可能です。そのような基本的な部分から説明しました。
さて、10時からのグループ。
全員、右手の基本タッチに疑問をもっているようでしたので、全員で指の基本動作、腕とのリンクを確認しました。ほとんどの人が腕の意識が希薄でした。段階をおって、1時間かけてしっかりと右手のタッチの基本動作を説明しました。動かしやすい指のアクションで弾弦することが基本です。手首の可動域をしっかりと理解する事、そして、腕との協調を考える事…そしてそのためには腕は肩甲骨と鎖骨からスタートしていることを意識することがとても大切です。その腕全体の力を指に伝えるために(基本的には)MCP関節から弾弦アクションを行う事が大切です。実はもうひとつの関節(手首近くの関節)であるCMC関節の可動については次のグループで説明しましたが、腕との連動をトレーニングすることによってしか、この関節の可動は実現できないような気がします(私の現時点での考察によります)。なので、まずは基本的には「腕の力を指先につたえる」ためにはMCP関節によるアクションがとても大切だと教えます。
以上、このグループは右手の基礎を徹底的に各自確認しあいながら行いました。
最後の11時からのグループ。質問の内容はバリエーションに富んでいました。
全員、ある程度の経験がある方たちだったので、右手のアングルについては省略し、爪の形状に関する説明を弦振動視覚化マシーン(仮称)を用いて説明しました。最近作った爪の形状視覚化ダンボール(仮称)も使いました。
(写真:上=弦振動視覚化マシーン 下=爪の形状視覚化ダンボール)
(弦振動視覚化マシーンには動画もあります。どうぞご参考に)
基本的には右手指の自然なアクションを意識するためには「打撃点」(=弦を最初にとらえる点)を明確に意識すること&その指のアクションを妨げない爪の形状をつくることです。基本的には直線に近くなると思いますが、指のアクションは円弧を描きます。そして、指先からみた爪のアーチは人によって違います。上記のダンボールで作ったもののように直線であることは少ない訳です。経験上言えることは、直線に近いほど、打撃点と弦が抜ける点は設定しやすいです。そのあたりから説明しました。
あとは弦に与える情報量を変化させるためには、表面板にたいする振動を縦にするか、横にするかによって実現されます。なので、大きな音をだすためには(質問4と関連ありますが)、縦振動を大きくすることが大切です。これによって弦の振動は表面板にしっかりと伝わります。
2について。これは難しい質問(苦笑)。そもそも「一番いい音」ってなんなのでしょうか?…そのあたりから定義して行くしかありません。若い子でしたが、彼の音の好みはジョン・ウィリアムズでした。クリアで立ち上がりのよい音が出したいのでしょうね。しかし、これから耳は変化します。粒立ちの良い音よりも、音楽表現のしなやかさを求めたい時期もくるでしょうね。このあたりを奏法史&ギター史的な観点からざっくりと説明しました。たぶん、タレガ時代には低音が強調された音楽が主流だったのでしょうし、その後のセゴビアやリョベートの時代になると、メロディーと低音のバランスが圧倒的に強調されてくるのでしょうね。それから内声を出すテクニックとなると、右手各指のバランスと独立性とコントロール力が重視されてきます。
余談になりますが、コントロール性が重視されると指の筋力は固定力を増します。ある意味でバッティングのフルスイングのような「振り抜き」は意識されにくくなるわけです。つまり、スウィートスポットとその後のコントロールに意識がいきすぎると筋肉が固くなるわけですね。実は奏法というのは、この相反する動きの間で揺れ動いていますね。優れた奏者は楽器のポテンシャルを最大限に実現させつつ、みごとに声部のコントロールなどを実現しています。いまのところ、これが完璧の実現できている奏者は私はしりません。音楽的なコントロールのみに90パーセントの労力を割いている奏者が昨今は主流なようです。
このあたりをざっくりと説明したわけです。結論をいえば、自分の好みは変化します。それを実現するためにフォームは変化させていかなければなりません。
3について。pのタッチについても上記の器具を使って説明しました。pのアクションが不自然なためにi指に大きな負荷をかけている例もみますので、実はpのタッチについて、そして爪の形状についてしっかりと理解することは右手全体のバランスを整える上で(&演奏障害を予防するうえで)大切です。
4について。2と関連がある項目ですね。大きな音をだすためには弦振動を理解する必要があります。そして、10時からのグループで説明したこと(上記参照)への理解も必要ですね。この質問に関しては、CMC関節の可動について説明しました。格段に腕とのリンクがよくなります。それは受講生3名全員に言えることでした。
5について。腕のリーチは各自違います。しかし腕のバランスをとるということを考えれば、自然にギターと身体の位置関係は定まってきます。それを追求していくしかありません。
以上、各グループそれぞれまったく違う進行になりました。なかなか面白かったですね。私がやったことは受講生各自違っているように見える共通項を探す事&切り口を探すことでした。あとは、各自観察させることです。自分でしっかり動いているな…と思っていても、想像以上に自分の脳内のイメージと違う動きをしていることが多いものです。これはいい動きだな!と他の人のスムーズなアクションを見れば、「そのように動かしたい!」という意欲も強くなります。よい効果をあげました。
今後も2名から3名程度のクリニックを定期的に開催してほしい!という受講生の要望もありましたので、やっていく予定です。2ヶ月に一度程度できればいいかなと思っています。
富川勝智
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1月29日、日曜ワークショップの日でした。毎回、クラシックギターの奏法や表現法について公開形式で、10名から20名集まって講義しています。毎回、お互いの弾き方を参照したり、私が受講生のもとをまわってアドバイスを与えたりしていますが、やはり受講生の方は「話を聞く事=わかったつもりになってしまう」ということのほうが多いようです。
なので、今回は「クリニック」形式にしました。
3つのグループにわけて(3名ずつ)、1時間ずつ奏法についてのクリニックを行ったわけです。
クリニックですから、いわば各自の悩みに対する処方箋を与えた訳ですね。ひとりの悩みも他の人の共通の悩みであったりします。そこで更に自分の奏法にたいする疑問や改善点がみつかることもあるかなあ?…とは想像していました。
結論として、まさにそのとおり!になりました。
クリニックの進め方としては、3名それぞれに「普段練習しているときに疑問に感じる事や悩んでいる事、不明な点はないか?」ということを質問していきました。3名それぞれに対する質問が終わって時点で、クリニックに入っていきました。
まずは私なりの処方箋を与えます。そして、それを目の前で実践してもらいます。のこり2名の人にもやってもらいます。「他の人もできているのかな?」「自分はしっかり他者の目からみて今言われたことを実現できているのだろうか?」ということを意識してやってもらうわけです。
これを、順次繰り返していきました。
各グループの質問とその処方箋を簡単に紹介しておきます。
9時からのグループ。
- スラーをかけるときの指の重心をどっちにおいたほうがいいか分からない
- メロディーをレガートに弾く基本は(特に下降音階において)?
- 音量が「p」が指定されているときに、抜けのある音が出にくい
- 演奏時の呼吸のノイズが気になる。特に録音などするとその音がとても気になる。
- 脱力の感覚がわからない。それを感じるためには?
- リタルダンドの感覚がわからない。
1についてですが、例えば下降スラーのときに、2−1という運指でおこなったときに、2のほうに重心をかけるべきか、1のほうに重心をかけるべきか?…という質問ですね。その人は基本的には1のほうに重心をかけたほうがいいと考えていたようです。しかし、例えばアラビア風奇想曲などのスラー連続&ポジション移動がある場合には、あまり1のほうに重心をおきすぎると、ポジションの移動がスムーズではなくなります。そのフレットに指がロック(固定)されてしまうからです。
実はどのくらい左手の押弦に重心をおくかは、右手の弾弦力と関係があります。基本的に人間は右手と左手が連動しています。しかし、弦がびりつかなければいいわけですから、このくらいの音量であれば、左手の押弦はこの程度の力でいいな!…というのをつかむしかありません。
その基本的なトレーニング法を教えました。そうすると、ポジション移動もスムーズになりました。
2について。下降音階のときに前もって左手の指を準備しておくか?ということです。左手のポジションをつくっていくトレーニングとしてはとてもよい練習ではありますが、実践においては、音がつながっているように聞こえる…ということができればよいわけです。いくら左手が準備されていても、右手と左手のタイミングがずれていては、レガートにはメロディーはつながりませんので。奏法における基本的な練習法と実践における応用は若干違うわけです。最終的には「自分の耳が一番の教師」です。たしかシューマンでしたかね?…そんなことを言っていましたが(追記:ショパンが言っていたことばですね 2012.01.30 pm10:40)、自分の頭のなかにあるイメージを実現できれば「正解」なわけですから、注意深く聴くしかありませんし、そのためのテクニックやルールを定めていけばいいわけです。伝統的な「こうすべき」という基本ルールはそのためのテクニックやメカニックの基礎を表現しているものが多いというだけです。
3について。音量が小さいときに、たとえ大きなホールでも響く音色というものがあります。「音色」についての定義がとても大切ですね。はっきりいってしまえば、倍音構成のことにつながります。高次の倍音が大きければ大きいほど、すっきりと聴こえます。要は右手の弾弦位置なのですが、それをしっかりと意識することです。これは受講生3名に聴き合いながら、工夫を重ねてみました。そのうえで、上記の倍音に関することを説明しました。
4について。基本的に口で息をすること。また空気を吸う時(吸気)とはく時(呼気)のときの「空気がはいってくる&だすとき」の方向性のイメージがとても大事です。「下から吸って、下に吐く」と思っている人は鼻だけで息をしていることが多いです。そしてノイズとなることが多いです。また演奏姿勢もとても大切です。肺を圧迫していると、スムーズな息ができません。あとは奥歯を噛み締めないこと。いくつかのコツを教えました。これも全員に体験してもらいましたが、劇的な改善がみられました。
音楽家にとって、呼吸に関する適切なレッスンは重要だと思います。市販の本でもとてもよいものが最近増えているので数冊読んでみる事も勧めます。
5について。主動筋と拮抗筋の関係を説明しました。例えばimの交互運動を行う時、iを弾いた直後は主動筋がオンになっています。つまり「使用されている」わけです。それをオフにしてから、mを弾弦します。iの主動筋がオフになっていると拮抗筋でスムーズに持ち上げる事ができます。それをしないでiの主動筋をオンのままにして、mを弾弦すると、拮抗筋はスムーズに機能しません。
実はこれを徹底的に意識するのが、ホセルイスゴンサレステクニックノートの最初の章の「音だし」練習です。iが弾弦するスピードと同じ程度でmを「すばやく戻す事」と教えられる事がおおいですが(これは私の師匠である手塚先生やホセルイスゴンサレス先生本人もいっていました)、そのためにはどうするか?…ということを考えなければいけません。実は主動筋と拮抗筋のオンとオフの感覚の問題なのです。
さて、そのためには「オンの感覚」を得なければなりません。よく「脱力が大事!」と音楽家の方がいっていますが、それは「オフの感覚」ですよね?…オフの感覚だけを感じようとしてはだめです。オフの感覚を得る為には、オンの感覚を徹底して感じることが一番最初に大切です。逆説的ですが、オンの感覚を実感するためには、ふだんオフの感覚でいることもベースメントとしてとても大切なのですが…。
そのオンの感覚を手指、腕、半身(肩甲骨あたりから)という風に体験してもらいました。それが分かると、オフにするべき自分の体の部位がわかります。
6について。表現についてです。これは拍を物理運動としてイメージできるか?という点がとても大切です。自然な動きをイメージすることが基本条件ですね。まるでボールがバウンドするかのようにですね。バスケットボールを弾ませるイメージを持つ事ですね。しっかりバウンドさせつづけるためには、しっかりとボールに力を与えなければなりません。そして、バウンドをさせつづけないためには…あまりボールに力をあたえてはいけません。バウンドが止まりそうなボールに一気に力を与える事も可能ですね。テーマに戻る「ア・テンポ」などはそのようにすると、聴き手に「あ!エネルギーが戻った!」という印象を無意識に与える事が可能です。そのような基本的な部分から説明しました。
さて、10時からのグループ。
全員、右手の基本タッチに疑問をもっているようでしたので、全員で指の基本動作、腕とのリンクを確認しました。ほとんどの人が腕の意識が希薄でした。段階をおって、1時間かけてしっかりと右手のタッチの基本動作を説明しました。動かしやすい指のアクションで弾弦することが基本です。手首の可動域をしっかりと理解する事、そして、腕との協調を考える事…そしてそのためには腕は肩甲骨と鎖骨からスタートしていることを意識することがとても大切です。その腕全体の力を指に伝えるために(基本的には)MCP関節から弾弦アクションを行う事が大切です。実はもうひとつの関節(手首近くの関節)であるCMC関節の可動については次のグループで説明しましたが、腕との連動をトレーニングすることによってしか、この関節の可動は実現できないような気がします(私の現時点での考察によります)。なので、まずは基本的には「腕の力を指先につたえる」ためにはMCP関節によるアクションがとても大切だと教えます。
以上、このグループは右手の基礎を徹底的に各自確認しあいながら行いました。
最後の11時からのグループ。質問の内容はバリエーションに富んでいました。
- 爪の形が分からない。タッチやアングルとの関係は?
- 一番いい音のでるギターのフォームが知りたい!
- imaの弾弦のコツはわかってきたのだが、pのアクションについて知りたい
- もっと大きい音を出したい。
- 現在、教える立場にあるのだが、自分は女性で体が小さい。背が高い男性を教える時のギターと身体の関係を教える際のポイントをしりたい。
全員、ある程度の経験がある方たちだったので、右手のアングルについては省略し、爪の形状に関する説明を弦振動視覚化マシーン(仮称)を用いて説明しました。最近作った爪の形状視覚化ダンボール(仮称)も使いました。
(写真:上=弦振動視覚化マシーン 下=爪の形状視覚化ダンボール)
(弦振動視覚化マシーンには動画もあります。どうぞご参考に)
基本的には右手指の自然なアクションを意識するためには「打撃点」(=弦を最初にとらえる点)を明確に意識すること&その指のアクションを妨げない爪の形状をつくることです。基本的には直線に近くなると思いますが、指のアクションは円弧を描きます。そして、指先からみた爪のアーチは人によって違います。上記のダンボールで作ったもののように直線であることは少ない訳です。経験上言えることは、直線に近いほど、打撃点と弦が抜ける点は設定しやすいです。そのあたりから説明しました。
あとは弦に与える情報量を変化させるためには、表面板にたいする振動を縦にするか、横にするかによって実現されます。なので、大きな音をだすためには(質問4と関連ありますが)、縦振動を大きくすることが大切です。これによって弦の振動は表面板にしっかりと伝わります。
2について。これは難しい質問(苦笑)。そもそも「一番いい音」ってなんなのでしょうか?…そのあたりから定義して行くしかありません。若い子でしたが、彼の音の好みはジョン・ウィリアムズでした。クリアで立ち上がりのよい音が出したいのでしょうね。しかし、これから耳は変化します。粒立ちの良い音よりも、音楽表現のしなやかさを求めたい時期もくるでしょうね。このあたりを奏法史&ギター史的な観点からざっくりと説明しました。たぶん、タレガ時代には低音が強調された音楽が主流だったのでしょうし、その後のセゴビアやリョベートの時代になると、メロディーと低音のバランスが圧倒的に強調されてくるのでしょうね。それから内声を出すテクニックとなると、右手各指のバランスと独立性とコントロール力が重視されてきます。
余談になりますが、コントロール性が重視されると指の筋力は固定力を増します。ある意味でバッティングのフルスイングのような「振り抜き」は意識されにくくなるわけです。つまり、スウィートスポットとその後のコントロールに意識がいきすぎると筋肉が固くなるわけですね。実は奏法というのは、この相反する動きの間で揺れ動いていますね。優れた奏者は楽器のポテンシャルを最大限に実現させつつ、みごとに声部のコントロールなどを実現しています。いまのところ、これが完璧の実現できている奏者は私はしりません。音楽的なコントロールのみに90パーセントの労力を割いている奏者が昨今は主流なようです。
このあたりをざっくりと説明したわけです。結論をいえば、自分の好みは変化します。それを実現するためにフォームは変化させていかなければなりません。
3について。pのタッチについても上記の器具を使って説明しました。pのアクションが不自然なためにi指に大きな負荷をかけている例もみますので、実はpのタッチについて、そして爪の形状についてしっかりと理解することは右手全体のバランスを整える上で(&演奏障害を予防するうえで)大切です。
4について。2と関連がある項目ですね。大きな音をだすためには弦振動を理解する必要があります。そして、10時からのグループで説明したこと(上記参照)への理解も必要ですね。この質問に関しては、CMC関節の可動について説明しました。格段に腕とのリンクがよくなります。それは受講生3名全員に言えることでした。
5について。腕のリーチは各自違います。しかし腕のバランスをとるということを考えれば、自然にギターと身体の位置関係は定まってきます。それを追求していくしかありません。
以上、各グループそれぞれまったく違う進行になりました。なかなか面白かったですね。私がやったことは受講生各自違っているように見える共通項を探す事&切り口を探すことでした。あとは、各自観察させることです。自分でしっかり動いているな…と思っていても、想像以上に自分の脳内のイメージと違う動きをしていることが多いものです。これはいい動きだな!と他の人のスムーズなアクションを見れば、「そのように動かしたい!」という意欲も強くなります。よい効果をあげました。
今後も2名から3名程度のクリニックを定期的に開催してほしい!という受講生の要望もありましたので、やっていく予定です。2ヶ月に一度程度できればいいかなと思っています。
富川勝智
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