ギターレッスンと演奏の日記 from 富川ギター教室

クラシックギターの「伝道師」富川勝智のギター教室でのレッスン活動と演奏活動の記録です。

2026年05月

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ホセ・ルイス・ゴンサレス「ギターテクニックノート」講座、第33回の動画を公開しました

今回は第9章「和音の移動」を扱っています。

ギターを学んでいると、和音はどうしても「押さえ方」として覚えがちです。Cはこう、G7はこう、Amはこう。もちろん、最初はそれで構いません。ギターは形で覚えやすい楽器ですし、フォームとして記憶することには大きな利点があります。

ただし、ある段階からは、それだけでは足りなくなります。

今回のテーマである「和音の移動」は、単にコードフォームを別の場所にずらす練習ではありません。和音の中にある音がどのように変化し、それによって響きの性格がどう変わるのかを、左手の形と耳の両方で理解していくための練習です。

たとえば、同じような指の配置に見えても、ひとつの音が半音動くだけで、和音の性格は大きく変わります。

明るく安定していた響きが、少し緊張を帯びる。
透明だった響きに、影が差す。
開かれていた感じが、内側へ沈み込む。

こうした変化は、理論だけで説明してもなかなか身体には入りません。逆に、指の形だけで覚えてしまうと、今度は音の意味が抜け落ちてしまいます。

大切なのは、指の動きと響きの変化を結びつけることです。

この章の面白さは、そこにあります。

ホセ・ルイス・ゴンサレスのテクニックノートは、一見するととてもシンプルな練習に見えるものが多いです。ですが、丁寧に見ていくと、その背後にはかなり実践的な考え方があります。


指を動かす。
音を聴く。
響きの変化を感じる。
なぜその形になるのかを考える。


この順番を踏んでいくと、和音練習は単なるメカニックではなくなります。

特にクラシックギターでは、和音の押さえ方を「完成形」として覚えるだけではなく、そこへ至る過程が重要です。どの指を基準にするのか。どの音が共通して残るのか。どの音が変化しているのか。指を全部離して毎回作り直すのか、それとも残せる指を残して移動するのか。

こうした判断が、実際の演奏では音楽の流れに直結します。

和音が変わるたびに身体が止まってしまう人は多いです。
それは、指が遅いからとは限りません。


むしろ、次の和音を「別の形」としてしか認識していないことが原因の場合があります。今の和音と次の和音の間に、どんな共通点があり、どこだけが変化しているのか。その関係が見えてくると、左手の移動はかなり整理されます。

今回の動画では、そのあたりを丁寧に見ていきました。和音は、ただ押さえるものではありません。響きの構造を手で理解するものです。


そして、その理解は演奏の安定につながります。左手が無駄に動かなくなり、音の変化を耳で追えるようになり、結果として音楽の流れが自然になります。

ギターの技術というと、速く弾くことや難しい動きをこなすことに目が向きがちです。しかし、本当に大切なのは、こうした地味な部分です。

和音が変わる時に、何が起きているのか。
左手は何をしているのか。
耳は何を聴いているのか。
その変化が、音楽としてどう意味を持つのか。

ここを曖昧にしたまま先へ進むと、難しい曲になった時に必ず困ります。


逆に言えば、このような基礎的な章を丁寧に扱うことで、あとから出てくる複雑な和音進行やポジション移動にも対応しやすくなります。

「ギターテクニックノート」は、単なる指の訓練帳ではありません。

身体の使い方、音の聴き方、楽譜の読み方、そして音楽の組み立て方を結びつけるための教材です。今回の第9章「和音の移動」は、そのことがとてもよく表れている部分だと思います。

和音を暗記するところから、和音を理解して動かすところへ。

今回の動画が、そのきっかけになれば嬉しいです。




先生はどうやって譜読みしているんですか? 佐藤弘和《すすきの穂が揺れる》を初見で読んでみた

生徒さんから、こんな質問を受けました。

「先生はどうやって譜読みしているんですか?」

なんという興味深い質問!!


譜読みというと、まず音を間違えずに拾う作業、指使いを決める作業、最後に音楽的に仕上げていく作業、というふうに考えられがちです。


でも、実際にはそう単純ではありません。

音を読む段階から、すでに音楽は始まっています。
どの音が大切なのか。
どこに呼吸があるのか。
和音の響きはどちらへ向かっているのか。
フレーズはどこで緩み、どこで少し前へ進みたがっているのか。


そうしたことを考えながら楽譜を読んでいかないと、あとから「音楽的にする」という作業が、ただの後付けになってしまうことがあります。そして、実はそういうことがわかっていないと運指つけも失敗するもんです。

このことを考えると、スペインのバルセロナで学んでいた頃のことを思い出します。

師事していたアレックス・ガロベー先生は、よくこう言っていました。


「一番最初に楽譜を読んだ時から、音楽的な部分をきちんと攻めろ」


つまり、譜読みの最初から、音楽としてどう立ち上げるかを考えるということです。


今回の動画では、佐藤弘和さんの《すすきの穂が揺れる》を、ほぼ初めて楽譜に向き合うところから読んでいます。完成された演奏を聴いていただく動画ではなく、演奏者が楽譜を前にして、どのように音を拾い、フレーズを考え、指使いや響きの方向を探っていくのか。その過程を見ていただく内容です。

《すすきの穂が揺れる》は、タイトルの通り、風景が静かに浮かび上がってくるような作品です。派手な技巧で押し切る曲ではありません。音の間合い、響きの揺れ、余韻の扱い。そうした繊細な部分が音楽の表情を作っていきます。


そして実はこの曲、7月にメキシコから来日するギタリスト、ホアン・カルロス・ラグーナと一緒に演奏する予定になっています。7月15日、新大久保のスタジオ・ヴィルトゥオージでのコンサートです。

つまり今回の動画は、本番へ向けての練習動画でもあります。(どう仕上がるか気になる人は来てくださいね!)

もちろん、初めて読む段階ですから、止まったり、考えたり、迷ったりもします。でも、その迷い方そのものが大切なのです。どこで立ち止まるのか。なぜ弾き直すのか。何を確認しているのか。そこに、その人の譜読みの方法が出ます。


プロの演奏家が楽譜と向き合うとき、最初に何を見て、何を考え、どのように音楽を立ち上げていくのか。

生徒さんの素朴な質問から始まった今回の動画ですが、譜読みという作業の本質を考える、なかなか面白い記録になったと思います。



五月の音楽、人の間に残る音

ぼんやりしていると6月がやってきてしまう。

2026年5月は、いろいろな場所で演奏する機会が続きました。


5月3日の教室発表会(ここでは僕は演奏してませーん)。
5月16日の「第2回 名器 尾野薫を聴く」。
5月17日のフルート教室でのゲスト演奏。
そして5月22日の歌とギターによる「にくあこ」ライブ。


それぞれまったく違う場でしたが、振り返ってみると、どれも「音楽は人の間に生まれるものだ」ということを感じさせてくれる時間でした。


まずは5月3日の教室発表会。

今年の発表会では、レオナルド・ブラーボさんと池田慎司さんをゲストにお迎えしました。教室の生徒さんたちにとって、これはとても大きな刺激になったようです。

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発表会というのは、生徒さんが日頃の練習の成果を発表する場です。もちろん主役は生徒さんたちです。ただ、そこに第一線で活動している演奏家の音が入ってくると、場の空気が変わります。


うまい演奏を聴いた、というだけではありません。音の密度、フレーズの運び、ステージでの佇まい、楽器との距離感。そういうものは、言葉で説明するよりも、目の前で体験したほうが早い。

レッスンでは、技術のこと、音の聴き方、身体の使い方、楽譜の読み方などを細かく伝えています。ただ、それだけでは届きにくいものもあります。実際に「音楽がそこに立ち上がる瞬間」を見ること。

それは、学ぶ側にとって大きな経験になる。

発表会は、ただ一曲を弾いて終わる場所ではありません。ほかの人の演奏を聴き、自分の演奏を振り返り、ゲストの演奏に触れ、自分がこれからどこへ向かいたいのかを少し考える場所なのかもしれませんね。


そして5月16日には、中野区野方区民ホールで開催された「第2回 名器 尾野薫を聴く」に出演しました。

このコンサートは、尾野薫さんを偲び、尾野さんの楽器を実際に響かせるという趣旨の会です。第1部は尾野薫ギター愛好家による演奏、第2部はプロによる演奏という構成。私は第2部に出演し、尾野薫さんの楽器を通して演奏しました。
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演奏曲目は以下。

光のない練習曲 A.セゴビア
思い出、牧歌、瞑想 R.S.デ・ラ・マーサ
グラナダの花 A.バリオス
レオナルドの歌 G.カサドー
プラテーロ、死 E.S.デ・ラ・マーサ


楽器には、作った人の考え方が残ります。

音の立ち上がり、余韻、音色の方向、鳴り方の癖。そうしたものは、図面や言葉だけでは完全には伝わりません。実際に手に取り、音を出し、会場に響かせてみて、初めてわかることがあります。

尾野薫さんのギターを弾くということは、ひとつの楽器を鳴らすだけではなく、その楽器を大切にしてきた人たちの時間を受け取ることでもあります。今回のコンサートには、そういう静かな重みがありました。

追悼の場で音楽を演奏する時、必要以上に感傷的になる必要はありません。けれど、何も感じずに弾くこともできません。大切なのは、感情をそのまま音にぶつけることではなく、作品と楽器と会場に耳を澄ませることだと思います。



翌日の5月17日には、フルート教室のゲストとして呼んでいただき、演奏する機会がありました。

この日は、ピアソラの「タンゴの歴史」を演奏しました。

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ギター教室ではなく、フルート教室。そこにギタリストとして参加するというのは、とても面白い経験です。普段クラシックギターに接している人たちとは、音の聴き方も、息づかいへの感覚も少し違います。

フルートという楽器は、当然ながら「息」が音になります。ギターは弦をはじいて音を出しますが、音楽としてはやはり呼吸が必要です。

「タンゴの歴史」は、フルートとギターという編成の魅力がとてもよく出る作品です。ギターがリズムとハーモニーを支え、フルートが旋律を歌う。ただ伴奏とメロディーという関係に収まるのではなく、時にはギターが前に出て、時にはフルートの息づかいに寄り添う。そのやりとりの中で、音楽が少しずつ動き出していきます。


そして5月22日には、代々木アルティカセブンで、Acoustic Ladylandとして歌とギターのライブに出演しました。
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この日は「にくあこ」という企画で、299とAcoustic Ladylandの対バンライブ。歌とギターという同じフォーマットでありながら、音楽の方向性はかなり違う二組。その違いが、ライブ全体の面白さになっていたように思います。


Acoustic Ladylandの演奏曲目は以下の通りです。

Adio Kerida セファルディ民謡
イグレシアス シルビア・ペレス・クルス
恋人たちの時刻 大貫妙子
さようなら 武満徹
ワルツ〜他人の顔〜 武満徹
Caro mio ben イタリア古典歌曲
夜へ急ぐ人 友川かずき
美貌の青空 坂本龍一
炎のたからもの 大野雄二

こうして並べてみると、かなり幅のある選曲です。

セファルディ民謡から始まり、スペイン語の歌、日本語の歌曲、武満徹、イタリア古典歌曲、ちあきなおみで知られる濃厚な世界、坂本龍一、そして「ルパン三世 カリオストロの城」の主題歌へ。

一見するとばらばらに見えるかもしれません。けれど、私たちにとっては、どれも「歌と言葉とギターの距離」を探るためのレパートリーです。


歌を支えるだけではない。ギターが前に出すぎるわけでもない。
言葉の余白、呼吸、音色、沈黙の間に、音楽の輪郭を作っていく。

Acoustic Ladylandで演奏していると、クラシックギターという楽器の別の表情が見えてきます。

クラシックギターは、どうしても独奏楽器として語られることが多い楽器です。けれど、声と一緒にある時、この楽器はとても柔らかく、そして時にかなり大胆な表情を見せます。低音で空気を作り、和音で景色を変え、たった一音の高音で言葉の意味を変えてしまうこともあります。


この日のライブでは、299との対比も大きな魅力でした。

299は、より身体的で、エネルギーが前に出る音楽。Adele、Queen、Rainbow、Stephen Stills、アニメソングまで、ロックやポップスの熱量をそのままステージに持ち込むような強さがありました。

一方でAcoustic Ladylandは、音数を絞り、言葉の内側に入っていくような音楽だったと思います。静けさの中に熱があり、音の少なさの中に濃さがある。そういう方向性です。

そして最後は、二組が一緒になってABBAの「Dancing Queen」「Chiquitita」を演奏し、アンコールではDeep Purpleの「Burn」。


5月3日の教室発表会で、生徒さんたちがゲスト演奏から刺激を受けたこと。
5月16日に、尾野薫さんの楽器を通して音と記憶に向き合ったこと。
5月17日に、フルート教室でピアソラを演奏し、ギターの呼吸について考え直したこと。
5月22日に、歌とギターで、言葉と音色と熱量の間を行き来したこと。



一見すると別々の出来事ですが、私の中ではすべてつながっています。音楽は、演奏者ひとりのものではありません。

作曲家がいて、楽器を作った人がいて、その楽器を守ってきた人がいて、共演者がいて、聴く人がいて、学ぶ人がいて、その日の空気がある。そのすべてが重なった時に、ひとつの演奏になります。




音楽の仕事を続けていると、どうしても準備や運営や本番の段取りに追われます。けれど、こういう時間が続くと、やはり音楽は人の間に生まれるものなのだと感じます。

この五月の出来事は、そのことをあらためて思い出させてくれる時間でした。

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