2008年8月8日〜10日にかけて長野県安曇野にて行われた「あづみ野ギターアカデミー」についてのレポートです。「レッスン&レクチャー編」です。
個人レッスンは3人のギタリストによる担当。富川勝智、池田慎司、多治川純一です。
聴講もあるマスタークラス形式…やはり教えるほうは聴講がいると生徒さんとのレッスンのスタイルを変化させます。聴講の人にも共通の問題点があるという前提でレッスンを進行させるものです。私の場合は特にそうです。普段のレッスンでは行わない「体験」的なアプローチをいくつか用いました。おそらく、こういうものは聴講生という「聴き手」がいないと成立しないし、「聴き手」がいると、いろいろとアイデアが沸きます。
やはり普段のレッスンですと、長いスパンで各自の生徒さんの上達を考えているわけです。必然的に数ヵ月後、数年後の生徒さんの姿を予想してレッスンするものです。しかし、マスタークラスの場合はその場限りという感覚が強いです。受講生と聴講生両方のためにレッスンを行うのですから、当然教える内容とか密度とかは変化します。
残念なことにスタッフの話によると、受講生の中には、部屋に引きこもって練習だけをしていたり、昼寝の時間が長すぎる(?)人もいたようです。もうちょっとアクティブに、あちこちの講師のレッスンを聴講して欲しかったですね。
井桁典子先生によるアンドーヴァー講習会…プロジェクターや骸骨模型を使って、非常に分かりやすい説明でした。みな、ギター弾きですので、やはりギターに特化した問題点を追及していくという形で進行いたしました。アンドーヴァーはアレクサンダーテクニークの演奏家への応用バージョンです。実践的なアイデアが豊富に含まれていて、みなの役にたったと思います。私自身も実に勉強になりました(雑用に追われて、全部の講義をパーフェクトには聞けなかったのが残念!)。
実際に受講生をモデルにギターを持ってもらって、アンドーヴァーがいかに実際に役に立つか、音に変化を与えるかを実感してもらいながらの講習会でした。受講生は20代〜30代が中心でしたので、レスポンスが早い!…という印象。脳みそが柔軟なほうが、アンドーヴァーは理解しやすいし、身体への反応はストレートなのだなあ…と思いました。どのような場合でも楽器演奏は身体と切り離しては成立しません。私が一番最初に習った先生も『楽器演奏はスポーツと一緒』とよく言っていました。この教えは非常に貴重なものとして、その後プロを目指すときにもこの言葉を思い出しながら練習を続けました。
スポーツはやはりダイレクトに身体を扱う分野なので、身体の研究はかなり進んでいます。芸術の分野に入る音楽の世界と比べると、おそらく何倍もの時間を身体の動きの研究に用いているのでしょう。それでも、さまざまな理論があり、おそらくスポーツ科学の分野はまだまだ進化し続けるのでしょう。
音楽の分野においては、身体の研究はまだあまり進んでいるとはいえません。そういう意味でアンドーヴァーはダイレクトに身体側からアプローチするものなので、実に応用が利きやすいものです。しかし、実際にそこから『自分の身体に合った奏法』を見つけていくのは、先人の知恵(多くの巨匠達の奏法)に実例を見つけていくことが実は大事だということを忘れてはならないと思います(これは私の個人的意見です)。ということで、やはりセゴビアやカルレバーロ、イエペス、ロメロファミリー…(まだまだ一杯いますけど・・・)の奏法を、『彼らが作りたかった音色や音楽』をしっかりと把握しながら、研究することを怠ってはいけないと個人的には思います。
さて、アンサンブル講習において、それぞれの基礎レベルが高かったため、非常に学ぶところが多かったと思います。私自身、いくつかのアマチュアアンサンブルを指導してきましたが、それぞれが個人プレイヤーとして通常のレッスンを受けている集合体は圧倒的にまとまるのが早いです。今回の講習会参加者はみな、通常個人レッスンを受講している人ばかりでしたので、基礎面ができています。読譜面で「落ちたり」「もどったり」「とまったり」…ということはなく、「音楽のレッスン」及び「アンサンブルのレッスン」に集中できました。
テーマが如何に形を変えていくか、スラーのニュアンスと言語の関係…音量変化のこと…さまざまなことをアンサンブルから学ぶことができます。これはアンサンブルに特化したことではなく、あくまでも「音楽のレッスン」ですから、もちろん独奏曲を弾くときにも応用できます。逆に言えば、独奏曲のレッスンにおいて、上記の「音楽面」をしっかりと意識していれば、アンサンブルにおいても的確なアプローチができるということになります。
上記いくつか書いてきましたが、個人レッスン受講&聴講&アンドーヴァー&アンサンブル…この4つをうまくリンクさせた人は一生分の課題を得たことでしょうし、次回(来年予定)の講習会においても、その問題意識をキープできると思います。
音楽の勉強というのは終わりがありません。あるときふと「あ!そうだったんだ!」と思うこともあるし、何年かかっても「わからん!」というものもあります。しかし、常に自分の課題点や問題点を心の奥底に“転がしておく”ことが大切です。そういうふうにしておくと、何かの経験でふと正解へのきっかけが得られることが多いのです。
次回、まだ今回の講習会の演奏会について触れていませんので、それについて…。では!