今週日曜、2009年10月25日に行われたマリア・エステル・グスマン女史の公開レッスンのレポートです。

(長文になる…予定です。心してお読みください)

主催は富川ギター教室と井桁ギター教室の共催という形でした。会場は井桁ギター教室のサロンにて。

20名も入れば、きつきつです。狭いですが、名手の音、動きなど詳細に見ることができます。聴講生するにはとても良い環境です。

富川、井桁、マリア・エステル

ということで、主催者2名(富川&井桁典子先生)+マリア・エステル・グスマンです。当日の進行は井桁先生が担当。通訳は私です。

公開レッスンは、小学生1名、中学生1名、成人2名が受講いたしました。

簡潔に言うと、『基礎に忠実なレッスン』でした。彼女は「正統的なギターテクニックの継承者」であるという確信を得ました。そして、基礎テクニックの重要さに対して、実に「真剣」です。

受講生の曖昧なテクニックに対しては、それを見逃さない鋭さがあります。身体のバランスにおいても、その観察眼は鋭いです。受講生が漠然と抱えているフォームの不安定感を見事に言い当てていました。

マリア・エステルと富川1

(↑楽譜について『ここがね〜…』って述べています)

各自30分ずつのレッスンでしたので、各自の問題点をずばりと指摘していました。そのほとんどがテクニックの不足(また認識不足)によるものでした。もしかしたら、それは聴講生にとっては「そんなこと知っているよ!」というものだったかもしれません。でも受講生にとっては「ぐさり!」と曖昧にしていた各自の弱点を指摘されるものであったことは確かです。

そして、そのテクニック上の指摘は「音楽上の目的を達成するため」に生徒に与えたものです。そして彼女の音楽表現に対する要求は(実は)非常に高いものです(※もしかしたら、このことは通訳をしている私が一番理解しているのかもしれません)。この音楽上の要求は言葉としては実に簡潔に説明するタイプの人なのです(一応、しっかり訳しましたよ!)。

聴講した方の中には、基礎テクニックばっかりで、音楽についてまったく語っていないのではないか?…と思った方もいたかもしれませんが、それは違います。上記で述べたように、「〜のために」という部分は受講生本人達にとっては「確かにそうだよなあ…」という感じで、「気づき」を促す簡潔な言葉で指摘しています。

さて、彼女の音楽上の要求の高さを理解するためには、ダイナミクスのコントロールに関してお手本として示した「半音階を用いた練習法」を例に挙げれば、充分であると思います。受講した方、聴講した方…みなさん、是非ギターを手にとって、「どんなだったかなあ?」とやってみてください。…はっきりいうと、とっても難しいです。半音階で、6弦開放弦から1弦12フレットまでクレッシェンドをかけ続ける…という練習なのですが、それをコントロールし続ける集中力(タッチに気をつけて!)は尋常ではありません。

その練習を例示したあと、受講生及び聴講生に「これを全部の指のパターンでやってね!…そして、amiの三本指のパターンも忘れないで!」と釘を刺します。

これは基礎練習のための基礎練習ではありません。「美しい音楽を作るための」基礎練習のアイデアなのです。そこで養われたコントロール力や集中力を音楽のフレージングに応用していくことが目標なのです。

それぞれの基礎テクニックが有機的につながっていけば、豊かな音楽が生まれてくるのは言うまでもありません。

そのことは彼女の演奏が語っています。彼女の声部などのコントロール力、音色のニュアンスの弾き分け方、楽曲全体の構築感は非常に繊細です。これは「やわな音楽」ということではありません。その繊細なコントロールが大きな音楽を作っていくのです。

その点を聴き取る能力がない人は、彼女の演奏を「単調」というかもしれません。しかし、本当に音楽の分かる人は、絶対に彼女の演奏表現に「想像を絶する凄さ」を見ることができるはずです。

マリア・エステルお手本実演

(↑お手本中!)


さて、話は思い出話。

1997年に留学中の私はグラナダで行なわれたマリア・エステル・グスマンの講習会に参加しました(マヌエル・デ・ファリャ音楽講習会!です)。

そこで、1週間強、毎日弾かされました。各生徒が毎日レッスンを受けられたわけです。そこでも同様に基礎テクニックが音楽表現、様式の表現のために必須であることが折にふれて解説されました。

そして、それが積みあがって来ると、凄い音楽になっていくことが受講生がもってきた楽曲の中で明らかになっていく様は、私にとって「重要な教え」として今も心の中に残っています。

つまり、先日たった一日で行われた公開レッスンですが、毎日生徒が受講できるような環境で、3日〜5日くらいのスパンで行われたならば、より彼女の音楽観とそれを導くための基礎技術の大切さが受講生にも聴講生にも実感できたのではないか?…と思っているわけです。

(とはいっても、ここは日本ですので、予算的にも日数的にもそれは無理でしょうね。)


さて、また話題をちょっとそらします。

彼女の休憩時間、いろいろと話しました。やはりスペインでも日本でも「基礎技術の低下」が気になるのだそうです。

そこで例に出てきたのが、「ホセ・ルイス・ゴンサレス・テクニックノート」(現代ギター社刊)。「あの本にはギタリストが身につけるべきメカニック、テクニックの全てが載っているわ!」と言っていました。その言葉は簡潔でした。

それがどのように音楽に使役していくか?…このことが分かっている人が非常に少ないのが、現代のギター界の問題点なのかもしれません。

ということで、やはり、彼女の演奏哲学や教授哲学の中に、セゴビアやホセ・ルイス・ゴンサレスなどと通底するものを見ました。そして、それを信念をもって教える彼女の姿勢は実に素晴らしいと思います。

なかなか、こういう人は最近いません。

「ごまかしのないレッスン」…素晴らしかったです。

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