2014年8月16日(日)第39回GLC学生ギターコンクールが開催されました。毎年私の生徒も多数でていますが、今年は二名が入賞。
高校生の部三位:鈴木文乃さん
大学生の部三位:裏川裕太郎さん
とりあえず、おめでとうございます!…指導者としては嬉しいことです。ふたりとも学業が忙しい中でがんばってくれたと思うからです。
私はコンクールの運営側(審査側)でもあるので、感想はなかなか難しいですが、自分が審査を担当した第二次予選の大学生の部と中学生の部について審査基準を書いておきます。原則として私個人の審査基準ですので、他の審査員の方にはそれぞれの審査基準があるという前提でお話します。
大学生の部(二次課題:タンゴ):タレガのタンゴが課題曲でした。私の審査基準は以下。
a:タンゴのグルーヴ感
b:低音の処理
c:フレージングと息の長さ
d:イントロの効果的な処理
e:音色とヴィブラートと装飾音
以下詳細に。
aについて:タレガ時代のタンゴがどのようなものであったか?…を感じなくてはいけません。テンポ設定においてはタレガの次世代のギタリスト(及び演奏家)がどのように「タンゴ」のテンポを設定していたかが参考になります。とはいっても最終的にはタレガがどのようなテンポを望んでいたのか?…は想像の領域の話となります。いずれにしても二拍子感(メトリック)を明確に感じながら、演奏していくのは(当たり前ですが)大切となってきます。そこから自然にタンゴのグルーヴは生まれてきます。とはいっても、そればかり強調するとメロディーの流れを阻害するものにもなります。「c:フレージングと息の長さ」も考慮していくと、この曲のテンポ感が分かってくるとは思います。
bについて:タンゴのベースラインの面白さをしっかりと考えてください。音を切るか、粘りをもったものにするか…いろいろな面白さが演出できるはずです。とはいっても、消音を大切に。ベースライン=一本…というふうに基本的には考えて良いはずです。ベースの動きは音程感が大切です。分散和音のようにして弾いている人が多かったように思います。自分がラテンバンドにはいってベースを担当するとしたらどう弾くだろうか?…と考えて、丁寧にハーモニーの推移をベース担当者が演出しなくてはなりません。そして歌の盛り上がりを考えて、ダイナミクスやテンポ変化などをサポートするべきです(もしくはベースが歌をひっぱっていってもよい)。全体として、ベースラインが全体の流れをひっぱっていくような推進力のある演奏をしていた人はほとんどいませんでした。
cについて:フレージングを意識した「息の長さ」を感じさせる演奏者も少なかったです。一度拍子を外して、鼻歌でもなんでも歌ってみること!…その練習を積めば、自然にフレーズの頂点や開始ポイントと終止ポイントの処理が分かってくるとは思います。
dについて:イントロの部分を魅力的にする方法…これを徹底して考えている人も少なかったように思います。「お?何が始まるんだ?」という期待感…というのでしょうかね?…それを表現してほしかった。何人か印象的なイントロを演奏していた人がいました。タンゴのベースラインが始まる直前の「休符+ハーモニクス」の浮遊感と緊張感を演出しきれているかどうか?…いずれにしても正確に楽譜を読み込み、イントロダクションのところの緊張感と先への期待感をしっかりと演出してほしかったです。
eについて:美しいメロディーの曲です。タレガ時代の曲ですので、ヴィブラートを効果的に使ってほしかったです。ヴィブラート=感情の高揚と捉え、どこでヴィブラートをかけるかをしっかりと考えてほしかった。…とはいっても、ほとんどの奏者はヴィブラートかけていないように感じました。そして、装飾音もこの手の曲では「歌の高揚感による声のうわずり」と捉えてもよいので、機械的にならないように。特にスペインものでは、高揚感がメリスマに変形していくように、装飾音の処理を歌唱から捉えることが肝要です。
中学生の部(二次課題:ひな菊):これも私の審査基準を明確にしておきます。
a:低音の処理
b:フレージングとアゴーギク
c:借用和音の印象的な処理
d:音色の多様さ
e:楽譜の正確な読みと「自発性」
大学生の部と同様に以下詳細。
aについて:少なくとも楽譜に書いてある低音の音価について正確に弾いてほしいと感じました。冒頭部の低音は付点四分音符です。ほとんどの奏者がその音価を守っていませんでした(私がチェックしたかぎりで6名ほどで、二次参加者の四分の一ほど)。低音を伸ばすことで得られる効果をしっかりと把握した演奏をしてほしかったです。その他、この曲のなかで低音が停止する部分や、わざと伸ばす部分…たくさんありますので、そこを譜読みの段階で丁寧に分析してほしかったです。
bについて:冒頭部分からドミナントへ向かって高揚して行く部分がありますが、それを音量やテンポの詰め方などで演出できている人はほとんどいませんでした。音高がじょじょに高まって行くだけでも、聴き手は「高揚感」を感じることができますが、認知心理学な観点からみると不十分です。テンポの詰め具合、音量の増大を伴うと、より「分かりやすい演奏」になります。演奏効果というのは聴き手が感じて初めて成立します。悪い言い方をすると、「あ、盛り上がっているな!」と感じているのは奏者だけ…という演奏がほとんどでした。冒頭以外でも、同じ音形パターンの繰り返し(中間部)がありますが、そこにも「積みかさね」の面白さと「じらし」をしっかりと表現して欲しいなと感じました。
cについて:和声学の知識が若干あれば、冒頭に戻る前の借用和音の面白さを素通りするはずはないはずです。本来メジャーの和音であるはずのところにマイナーの和音が来れば、アクセントです。強く弾けば良いのではなく、いろいろな表現があるはずです。時間を長めにとってもいいですし、音色を変えてもよいのです。素通りするのはいけません。なにかやってください。ほか、全般的に和声進行を把握して全体の流れをコントロールしていた奏者は少なかったです。本選の中学生の部の奏者たちは全員すばらしかったのですが、二次課題の時点で「当たり前」にできていないということはとても残念でなりません。この二次課題のレベルでは、本選の表向きの「素晴らしい演奏」=「借り物」としか見ることができません。
dについて:ひな菊ははっきり言ってしまえば、単調に聴こえてしまう曲です。音色を効果的に使って、面白く聴かせるしかありません。もう少し工夫してほしかったです。
eについて:ここからは私見ですが、大切な部分です。楽譜は正確に読むこと!…音価をまずは正確にリアライズすること!…そこからでてくる音楽の効果をしっかりと自分の中に還元すること!…中学生ならばそのくらいの「知性」と「悟性」を持ってほしいと思います。自分勝手なイメージ作りは作曲者のイデアを壊します。この点については小難しくなるのでこのあたりで(分かる人だけ分かってくださいね)。
以上、細々と書きましたが、以上が私の二次審査をしたときの審査基準です。一次審査も私は担当しましたが、全員に言えることは「もっと楽譜を正確に読んでください」ということです。
今なんとなく弾けている…というレベルよりももっと上を目指してほしい。10年、20年後に素晴らしい音楽ができていることを個人的には望んでいます。
いずれにしても、各参加者みなさん努力したとは思います。お疲れさまでした!
また来年、みなさんの努力の成果を見ること&聴くことができることを楽しみにしております!
なお、39回の結果はギターリーダーズクラブホームページにてご覧いただけます。
GLC39回結果
高校生の部三位:鈴木文乃さん
大学生の部三位:裏川裕太郎さん
とりあえず、おめでとうございます!…指導者としては嬉しいことです。ふたりとも学業が忙しい中でがんばってくれたと思うからです。
私はコンクールの運営側(審査側)でもあるので、感想はなかなか難しいですが、自分が審査を担当した第二次予選の大学生の部と中学生の部について審査基準を書いておきます。原則として私個人の審査基準ですので、他の審査員の方にはそれぞれの審査基準があるという前提でお話します。
大学生の部(二次課題:タンゴ):タレガのタンゴが課題曲でした。私の審査基準は以下。
a:タンゴのグルーヴ感
b:低音の処理
c:フレージングと息の長さ
d:イントロの効果的な処理
e:音色とヴィブラートと装飾音
以下詳細に。
aについて:タレガ時代のタンゴがどのようなものであったか?…を感じなくてはいけません。テンポ設定においてはタレガの次世代のギタリスト(及び演奏家)がどのように「タンゴ」のテンポを設定していたかが参考になります。とはいっても最終的にはタレガがどのようなテンポを望んでいたのか?…は想像の領域の話となります。いずれにしても二拍子感(メトリック)を明確に感じながら、演奏していくのは(当たり前ですが)大切となってきます。そこから自然にタンゴのグルーヴは生まれてきます。とはいっても、そればかり強調するとメロディーの流れを阻害するものにもなります。「c:フレージングと息の長さ」も考慮していくと、この曲のテンポ感が分かってくるとは思います。
bについて:タンゴのベースラインの面白さをしっかりと考えてください。音を切るか、粘りをもったものにするか…いろいろな面白さが演出できるはずです。とはいっても、消音を大切に。ベースライン=一本…というふうに基本的には考えて良いはずです。ベースの動きは音程感が大切です。分散和音のようにして弾いている人が多かったように思います。自分がラテンバンドにはいってベースを担当するとしたらどう弾くだろうか?…と考えて、丁寧にハーモニーの推移をベース担当者が演出しなくてはなりません。そして歌の盛り上がりを考えて、ダイナミクスやテンポ変化などをサポートするべきです(もしくはベースが歌をひっぱっていってもよい)。全体として、ベースラインが全体の流れをひっぱっていくような推進力のある演奏をしていた人はほとんどいませんでした。
cについて:フレージングを意識した「息の長さ」を感じさせる演奏者も少なかったです。一度拍子を外して、鼻歌でもなんでも歌ってみること!…その練習を積めば、自然にフレーズの頂点や開始ポイントと終止ポイントの処理が分かってくるとは思います。
dについて:イントロの部分を魅力的にする方法…これを徹底して考えている人も少なかったように思います。「お?何が始まるんだ?」という期待感…というのでしょうかね?…それを表現してほしかった。何人か印象的なイントロを演奏していた人がいました。タンゴのベースラインが始まる直前の「休符+ハーモニクス」の浮遊感と緊張感を演出しきれているかどうか?…いずれにしても正確に楽譜を読み込み、イントロダクションのところの緊張感と先への期待感をしっかりと演出してほしかったです。
eについて:美しいメロディーの曲です。タレガ時代の曲ですので、ヴィブラートを効果的に使ってほしかったです。ヴィブラート=感情の高揚と捉え、どこでヴィブラートをかけるかをしっかりと考えてほしかった。…とはいっても、ほとんどの奏者はヴィブラートかけていないように感じました。そして、装飾音もこの手の曲では「歌の高揚感による声のうわずり」と捉えてもよいので、機械的にならないように。特にスペインものでは、高揚感がメリスマに変形していくように、装飾音の処理を歌唱から捉えることが肝要です。
中学生の部(二次課題:ひな菊):これも私の審査基準を明確にしておきます。
a:低音の処理
b:フレージングとアゴーギク
c:借用和音の印象的な処理
d:音色の多様さ
e:楽譜の正確な読みと「自発性」
大学生の部と同様に以下詳細。
aについて:少なくとも楽譜に書いてある低音の音価について正確に弾いてほしいと感じました。冒頭部の低音は付点四分音符です。ほとんどの奏者がその音価を守っていませんでした(私がチェックしたかぎりで6名ほどで、二次参加者の四分の一ほど)。低音を伸ばすことで得られる効果をしっかりと把握した演奏をしてほしかったです。その他、この曲のなかで低音が停止する部分や、わざと伸ばす部分…たくさんありますので、そこを譜読みの段階で丁寧に分析してほしかったです。
bについて:冒頭部分からドミナントへ向かって高揚して行く部分がありますが、それを音量やテンポの詰め方などで演出できている人はほとんどいませんでした。音高がじょじょに高まって行くだけでも、聴き手は「高揚感」を感じることができますが、認知心理学な観点からみると不十分です。テンポの詰め具合、音量の増大を伴うと、より「分かりやすい演奏」になります。演奏効果というのは聴き手が感じて初めて成立します。悪い言い方をすると、「あ、盛り上がっているな!」と感じているのは奏者だけ…という演奏がほとんどでした。冒頭以外でも、同じ音形パターンの繰り返し(中間部)がありますが、そこにも「積みかさね」の面白さと「じらし」をしっかりと表現して欲しいなと感じました。
cについて:和声学の知識が若干あれば、冒頭に戻る前の借用和音の面白さを素通りするはずはないはずです。本来メジャーの和音であるはずのところにマイナーの和音が来れば、アクセントです。強く弾けば良いのではなく、いろいろな表現があるはずです。時間を長めにとってもいいですし、音色を変えてもよいのです。素通りするのはいけません。なにかやってください。ほか、全般的に和声進行を把握して全体の流れをコントロールしていた奏者は少なかったです。本選の中学生の部の奏者たちは全員すばらしかったのですが、二次課題の時点で「当たり前」にできていないということはとても残念でなりません。この二次課題のレベルでは、本選の表向きの「素晴らしい演奏」=「借り物」としか見ることができません。
dについて:ひな菊ははっきり言ってしまえば、単調に聴こえてしまう曲です。音色を効果的に使って、面白く聴かせるしかありません。もう少し工夫してほしかったです。
eについて:ここからは私見ですが、大切な部分です。楽譜は正確に読むこと!…音価をまずは正確にリアライズすること!…そこからでてくる音楽の効果をしっかりと自分の中に還元すること!…中学生ならばそのくらいの「知性」と「悟性」を持ってほしいと思います。自分勝手なイメージ作りは作曲者のイデアを壊します。この点については小難しくなるのでこのあたりで(分かる人だけ分かってくださいね)。
以上、細々と書きましたが、以上が私の二次審査をしたときの審査基準です。一次審査も私は担当しましたが、全員に言えることは「もっと楽譜を正確に読んでください」ということです。
今なんとなく弾けている…というレベルよりももっと上を目指してほしい。10年、20年後に素晴らしい音楽ができていることを個人的には望んでいます。
いずれにしても、各参加者みなさん努力したとは思います。お疲れさまでした!
また来年、みなさんの努力の成果を見ること&聴くことができることを楽しみにしております!
なお、39回の結果はギターリーダーズクラブホームページにてご覧いただけます。
GLC39回結果
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