ソルは何を書いているのか?…それを伝える講座となりました。

昨日4/5に行ったソル講座、満席での開催となりました(中には現代ギターの伝説の編集長Nさんもいて、ちょい緊張)。

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今回あらためて…というか再び感じたのは、「ソルをどう扱うか」という問題が、まだ十分に共有されていないということ。

クラシックギターを学ぶ中で、ソルには必ず出会います。けれど、その扱い方は少し気になることが多い。勉強すべき楽曲、そして「よくわからないけど偉大な人の作品」…漠然とそう思ってやっている方が多いのではないでしょうか。

ソルが思っている「古典の美学」「クラシック音楽とはかくあるべし」ということが分からないと見失うものが多いのです。

ソルの作品を丁寧に見ていくと、旋律と伴奏という単純な枠では収まらない書き方が随所に現れます。和音としてまとめれば簡単に弾ける。でも、声部として見ると意味が変わる。音価や休符の位置も、単なる
書き分けではありません。音楽の重心や流れを決めている。

音数の違いも同じです。厚みの問題ではなく、強さや方向、呼吸に関わっている。


問題は、弾けるかどうかではありません。どう読むか。


この部分は、実はあまり共有されていません。演奏として音符を然るべきタイミングで配置すれば成立してしまうから、深く掘り下げられない。

結果として、かなり高いレベルの現場でも、この読みが曖昧なまま扱われていることがあります。


ソルは、扱いやすい作曲家ではありません。むしろ、どこまで楽譜の中の情報を拾えるかで、音楽の深さが変わる作曲家です。

講座では、まずソルの生い立ちから確認しました。モンセラート修道院での教育。ポリフォニーや対位法といった、西洋音楽の根幹。その基盤があるからこそ、あの書法が生まれている。

そこから実際の楽譜へ入っていきます。「声部」をどう読むか。

ここで重要になるのが、19世紀ギターの記譜です。当時の楽譜は、必ずしも声部が明確に書き分けられているわけではありません。符尾の向きも曖昧なまま、和音としてまとめられていることも多い。

カルッリなどは典型的です(もちろん声部の意識はある)。でも書き方は簡素です。音脈分凝の感覚。音はまとまって書かれていて、そこからどう分けて読むかは奏者に委ねられている。これはある意味でルネッサンスやバロック期の撥弦楽器の楽譜がタブラチュアで書かれていた感覚に似ています。当時の奏者は音楽理論も完璧でしたので、五線譜で声部が書き分けられてなくても、タブラチュア譜から声部を視認できたのでしょう。なので、カルッリの罪ではありません。カルッリは楽譜の読みやすさを配慮しつつ、走者には自身での声部分けを期待したのでしょう。

その流れの中でソルの譜面を見ると、違いがはっきりします。声部への意識が強いので、五線譜という枠組みの中で丁寧に各声部の書き分けを行っています。二段譜に近い発想で整理しようとしている。見かけはホモフォニーであっても、中身はポリフォニーが強い。そして、書き分けにこだわったのは、当時のギター愛好家たちが「和音がなんとなくなっていてメロディーあればいいよー」という実に19世紀的なホモフォニー感覚に毒されきっていたという事情があるのでしょう。ただアルペジオや和音を鳴らした上に旋律が乗っている…そんなギター音楽が周辺でブームだったことへの反論だったのかもしれません。

これらのことを見落とすと、ソルの音楽(カルッリやジュリアーニなども含めて)の捉え方が変わってしまいます。

和音として弾くか、声部として扱うか。それだけで音楽が変わる。

同時代の作曲家と並べてみると、その違いはさらに明確になります。ホモフォニーの明るさも良い。でもソルは別の次元で組み立てている。

今回の講座では、こうした違いを、なるべく身体感覚として理解できるように進めていきました。

例えばホモフォニーの説明では、シンプルなコードをかき鳴らしながら、その上で自由に歌ってみる、ということを実際にやってみました。伴奏の上に自然に旋律が立ち上がってくる。その感覚そのものが、初期古典期における「旋律は自然であるべし」という美学につながっています。

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言葉で説明するよりも、音にしてみた方が早い。そういう場面も多かったと思います。

そしてもう一つ、大きなポイントが楽器です。


ソルが使っていた19世紀ギター。音はすぐ消える。音量も大きくない。音が重ならない。響きとしては乏しいかもしれません。でもその分、線が見える。

この前提に立つと、ソルのポリフォニーは思想ではなく、かなり合理的な音楽として見えてきます。


ここで出てくるのが、音数とダイナミクスの関係です。

音の数が違う。それだけで、強さや密度、流れが変わる。単なる和音の厚みではなく、音楽の方向が変わる。

これらの視点で楽譜を見ると、それまで見えていなかったものが更に立ち上がってきます。

では、それを現代のギター(トーレス以降のモダンギター)でどう扱うのか。響きが強く、トーンコントロールも広がりがある。そして、ダイナミクスのレンジも広い。19世紀ギターでの声部表現は若干しづらくなりますし、より旋律を歌わせる傾向が強くなる。

ここがつながると、現代のギターでソルなどの古典を弾いていくヒントが得られるでしょう。

最後に、ソルのエチュードについて、原典版、コスト編、セゴビア編の比較にも触れました。

構造として書かれた音楽が、時代を経て音響として再構成されていく。その過程の中に、セゴビアの音楽観、さらには1920年代の表現のあり方が色濃く反映されていることも見えてきます。

このあたりの内容については、普段のレッスンの中では扱っているのですが、あらためて講義形式で整理してみてもよいタイミングかもしれないと感じています。



今回の内容は、すぐに何かが弾けるようになるものではありません。

でも、音の見え方は変わります。

そしてこの変化は、ソルだけで終わりません。その先のレパートリーに、そのまま影響していきます。

こういう内容に時間を使う人は多くありません。だからこそ差がつきます。

もし少しでも違和感があるなら、その感覚はかなり正確だと思います。


次回は6/14。は「ソルからコストへ」。この流れが見えてくると、古典期からロマン派への音楽の重心の移動が、かなり具体的に見えてきます。

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「巨匠たちの作品への真摯なアプローチ
〜徹底ガイド!ギター音楽と作曲家の世界〜」

第2回 ソル〜コスト「弟子が引き継いだもの」
2026年6月14日(日)14:00〜15:30

会場:GGサロン (東京都豊島区千早1-16-14)
料金:一般3,500円/学生1,500円

詳細・お申込みは、添付のチラシをご確認ください。

予約・問合せ先はクラシックギター専門店GGショップで、電話番号は03-3530-5342、メールはshop@gendaiguitar.comです。

アクセスは東京メトロ有楽町/副都心線 要町駅4番出口より徒歩3分です。



2026GG講座真摯なアプローチ