全体の印象としては、非常に「焦点が明確な」レッスンだったということです。受講生の楽曲もある程度、クエンカ氏が得意そうなものにあらかじめ設定したということもありますが、やはりスペイン音楽特有のダイナミクスや的確なアクセント付けということにおいて、多くのことが学べるレッスンであったと思います。
時間はひとり40分前後あったため、じっくりと楽曲全体を通してポイントを見て行くことができました。
ひとりめ、鈴木文乃さんのレッスン。
トゥリーナのセビリア幻想曲。ラスゲアードのポイントを説明。楽曲のダイナミクス、音色の使い分けなどがポイントでした。
林祥太郎君。
レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサのサパテアード。これもサパテアード(スペインの舞曲の種類でもある)のアクセントのポイントを説明。踊り手がいると過程して「そこで走ったら、踊り子はてんやわんやだぜー」(←意訳)というように非常にわかりやすいレッスン。あまりにもスムーズにサパテアードのレッスンが終わったので、もう一曲何かないか?…とのことで、同じ作曲家のロンデーニャも見てもらいました。
これも正確なアクセント付けを丁寧に伝授。
最後はいまをときめく東京国際優勝の藤元高輝君(写真ありません。すいません)。
ロドリーゴの祈りと踊り。これも舞曲のアクセントを明確にすることで、楽曲に推進力が生まれます。和音の響かせ方も、クエンカ氏独自のもので、よいアイデアだったと思います。藤元君のレッスンも時間があまり、ベリオのセクエンツァ(!)のゴルペやラスゲアードの扱い方もワンポイントで指導。このようなギターの特殊奏法に関するセンスもクエンカ氏のアイデアはすばらしかったです。
…と書いてきましたが、なによりも彼のギターの音色とダイナミクスに関する考え方は非常に面白かったです。
本人は意識していないかもしれませんが、「アクセント」のとき、見事に音色の中に含まれている倍音の比率を変化させています。振動の量ではないのですね。もちろん音量もアップはしているのかもしれませんが、彼が求めてるのは「人の耳に印象づける」要素なのでしょう。
ダイナミクスに関しても、フォルテのときはブリッジ寄りで弾くことが多いですね。これも彼がお兄さんであるピアニストのホセ・マヌエル・クエンカ氏とくんでいるデュオでの経験から導きだされたものであるようです。
ピアノにも比肩する音量…それは実際の音量では太刀打ちできないということなのでしょうね。音色で「人の耳に注意を喚起する」ことが大切なのです。
にたようなことは、スペインのギタリストであるマリア・エステル・グスマンさんも言っていました。彼女の日本でのマスタークラスの通訳も数度やっていますが、音量を大きくしてね!というところを「abierto」という単語を使います。これは英語でいうところのopenですね。「開いて!」ということです。クレッシェンドのところで使うのは想像できましたが、おおきな音量が要求される部分(たとえばffの部分など)でも使っていました。
この感覚が分かるとクエンカ氏が大きな音量が要求される部分でブリッジ寄りの部分を使う理由が推測できると思います。
というわけで、非常に勉強になったレッスンでした。通訳の特権として身近で彼のタッチを見れるというのもいいのです。非常に面白いです。帰宅して早速試してみましたが、かなり近い倍音構成の音が出せました。自分の勉強にもなったわけですね。
スペインの音…というよりはそもそも音楽というものはどうあるべきなのか?…ギターという楽器のポテンシャルを引き出すためにはどういう感覚を持たねばならないのか?…という点においても、すばらしいレッスンだったと思います。
富川勝智
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