楽譜って怖いですね。楽譜によって結構音価や変化音(シャープとかフレット)が違っていて。それが全く違う音楽を作ってしまうことがある。
なので、レッスンするときは出来るだけ「原典」に近いものを使うことを生徒には勧めている。

特にフェルナンド・ソルの楽曲に関しては、細心の注意を払わないと”それってソルの意図と反しているよ”という結果を招きかねない。

最近レッスンした中で気づいた例がこれ。

Op.31-1です。14小節。こちらは定番のギター教本であるギタルラ社の「新ギター教本」に出ているバージョン。


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これが現代ギター社版(中野二郎編)ではこうなっている。
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バスの長さが違うのです。バスが三拍維持されることによって、三拍目で独特のドミナント感(緊張感生まれます)。もちろん、楽譜の誤植かもしれませんがw

もう1つ同じエチュード。同じく新ギター教本から。
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中野二郎編だとこうなってます。
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お!!!三拍目に休符が!!!
この休符によりメロディーのアウフタクト感が強くなります。弾き比べてください。印象がかなり違いますよねー。

次はOp.31-4。とある「名曲集」に載っているバージョン。
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ラがシャープになっています。和声的短音階で作られる和音なので、理論上も聴感上も問題はないように見えますが……

中野二郎編ではこうなっています。
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ラが普通にナチュラルです。こうすることによって、三小節目にニュートラルに声部が進行していきます。4小節目になって初めてドミナントセブンスがきっちりと鳴り、且つ休符で断ち切られる緊張感!
これに慣れてしまうと2小節からラをシャープさせているバージョンは”凸凹”に聞こえてきます。

これも是非弾いてみて、聴き比べてください。

……こんな感じで曲集や教本に載っているエチュードは結構原典と違う部分があるのです。

ソルに関してはパターンから逸脱したものが多くて、普通だったらこうだろうなーというのを裏切っている部分が多いのです。なので、写譜するときなどに「普通なこうだろー」と写し間違ったものが教本や曲集に載ってしまっているのかもしれません。

現代ギター社版の中野二郎編は、当時出版された楽譜をそのまま浄書して載せてあります。編者が勝手に「ここは普通シャープだよね?」とか「これは付点音符じゃないだろ〜」という判断で音の改変を行なっていない。ここがある意味すごい。だから「原典版」と言えるのです。

実はこのあたりにソルの「ひねくれ具合」が出ていたりします。そのあたりは謎解きに近いものがあり、普通はこうするんだけど、これわかるかな???(どうせわかんないだろーなw)という感じなんでしょうね。

このトリッキーさはスタンダードな声部進行や和声の理論を知っていないとなかなかわかりません。

ギタルラ社の新ギター教本が悪いというわけではありません。ある意味、スタンダードに弾きやすく若干の改編をするのは初心者にはありがたいものです。実際Op.31-1でバスだけ低音を低音を消音するというのは初心者にはハードルが高すぎますから。

載っているバージョンをそのまま弾いていけばいいんです。

とはいえ、ソルの楽曲の醍醐味はこういう「ひねくれた」ところにあります。レッスンでは生徒さんと色々と謎解きをしていきます。それはとても楽しい作業で。そして、そこにソルの楽曲の美しさや面白さが隠れているわけです。

どうしてここに休符入れたんだろー?とか考えながらレッスンしていく(自分で練習するときも)のは楽しい作業です。

いつもそんな感じでソルのエチュード教えるときはやってます。